矢野ガッツ「僕らが楽しんで…」胸中に秘める使命感(日刊スポーツ)




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出典元: 本塁打を放った上本を迎える矢野監督(2019年5月3日撮影)

<虎番リポート>

子どもたち、野球は楽しいぞ!! 阪神矢野燿大監督(50)が「矢野ガッツ」にまつわる信念を明かした。

【写真】これが矢野ガッツ

タイガースの深層に迫る「虎番リポート」は指揮官に密着する酒井俊作キャップが報告。今季、ナインに「楽しむ」野球を提唱し、ベンチ内でのガッツポーズも浸透する。異論も出るなか、一流に感化された価値観をもとにチーム作りに専念。優勝を目指しつつ、将来の野球界をになう少年少女にメッセージを送る。

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古参ではないが、まあまあ阪神を見てきた。合計13年目。なかなかの年月である。駆けだしのころは常勝期で試合後の取材はビビり倒した。勝手に怖い選手ランキングをつけていた。今岡さん、金本さん、伊良部さん、負けた日の赤星さん…。でも、ダントツトップは矢野さんだった。敗戦後の人を寄せつけない空気感が半端なく足がすくんだ。

いま、実に柔らかい表情で言うのだ。「あの時は近寄るなオーラ、出してたからな」。心の奥底まで見透かされるような視線を思い出す。だから、だろう。矢野監督が試合でみせる笑顔やガッツポーズに開幕当初は妙なギャップを覚えた。

安打に打った選手も、ダッグアウトの若手も、腕を突き上げる。矢野監督もガッツポーズ。先日は、甲子園を訪れた野村克也元監督にかみつかれたばかりだ。「大反対! 勝って万歳せい! 試合中に万歳する監督は、ろくな監督いない」。インターネットでもちらほら見られる論調だ。

リーグ戦が再開した6月29日。中日戦の練習前、ナゴヤドームの三塁ロッカールームに選手、スタッフが集まった。監督が前に立った。「俺たちは楽しむ野球を続けていこう!」。ガッツポーズは指揮官が率先してきた「楽しむ」野球の象徴だ。その姿勢を続ける。上位を目指す節目の試合前に思いを共有したという。矢野監督は意図を明かす。

「しかめっ面で野球をしている俺の映像やタイガースの空気感より、喜怒哀楽がある程度出て、うれしいときは思い切り喜んで苦しい状況でも楽しむことがファンにも楽しんでもらえるんじゃないかな。楽しむのは俺のなかで究極。いろんなことを学ばせてもらって、そこに行き着いている」

十数年前、鬼のように映った「矢野さん」が、その境地に達するには、歳月を要した。「現役のとき、あんまり楽しめなかった」。03、05年の優勝に導いた正捕手は明かす。「また『楽しむ』っていう、その言葉も嫌いだったのよ。違う人が言っても『何が楽しむや!』って。『楽しい』ってある意味、へらへらしたイメージがあって。仕事って苦しいことに耐えてこそ結果も出るし、対価として年俸をいただけると思っていた」。勝利至上主義が幅を利かせ、努力や根性が美徳とされる風潮があった。

人と会い、書物に触れて価値観が変わった。あるとき、騎手の武豊と話す機会があった。「ジョッキーって楽しいですか」。その返事が心に刺さった。「めっちゃ楽しいです。だから、全然、仕事が関係ないときでも、馬のことを考えてしまいますね」。一流の心に触れ、共感を深めた。

「俺らの原点ってそこなのよ。子どものころ、野球をやっているときはまさにそう。ハマっていることって楽しい。夢中やから何時間やっても、疲れへんし、もっとうまくなりたいと思う。ずばぬけた人は、そういうふうに仕事している。『仕事』と思っていなくて楽しいことを、ただやっているんだよね」

博学な人だ。さすが捕手らしく「楽しむ」意味を多角的にとらえている。「結果を出さないとダメだって思うと人間は緊張する。恐怖って、脳が体を緊張させてしまう。でも『楽しむ』って思えたとき、筋肉は緩む。いいパフォーマンスが出やすい」。脳科学の分野からのアプローチもまた、裏づけになっている。

繰り返し、ナインに伝えてきたことがある。「野球ってつらいとかしんどいイメージがある。俺らが楽しんで野球している姿を子どもたちに見せていこう」。少年や少女に向けて、タイガースが「楽しむ」野球を発信し、苦しく、キツイ印象がつきまとう野球の印象を変えていく。勝つこと、優勝することの先にあるもの-。矢野監督の胸中に秘める使命感がにじみ出る。

▽「矢野ガッツ」はファンから圧倒的支持を受けている。酒井キャップのツイッターで6月30日から7月1日午後5時までナインが頻繁にガッツポーズする是非を問う緊急アンケート。2738票で87%が「いいと思う」と答えるなど、大半が好意的に見ていた。5%が「よくないと思う」の反対意見。「どちらでもない」が8%だった。「チームの雰囲気を明るくするためにもやるべき」や「せめてクリーンアップは打って当たり前、涼しい顔でいて欲しい」などの意見も出た。